Rhapsody

  -ゆるやかに流れる時間の中、僕と君だけが凍り付いていた



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夢幻泡影〔2〕


「夢幻泡影〔2〕」

珍しくもない、ありふれた依頼――千里眼の力を使っての捜し物。
聞いたこともないような遠い土地からやってきた黒髪の少女もその例に漏れず、一匹のポケモンを探して欲しいと言った。
「どうしてあの子が居なくなったのかわからない……でも、ずっと探しているの」
まるで硝子を擦り合わせたような聞き取り辛い掠れ声と、溜め息を吐くような話し方がやけに耳に付く。
色あせた写真に添えられた指は折れそうなほど細く、白いを通り越して青白くさえある。
だが、特に珍しいわけではない。
思い詰めた人間は大抵こうだから、と気にすることもなく、相手の目を直視しないようにすることだけを考えながら、マツバは差し出された写真を手に取った。
切り取られた記憶の中で、今よりずっと健康的な少女とムウマージが幸せそうに微笑んでいる。
本当に同一人物なのかと写真を凝視するように見つめ――向けられている視線に、小さく咳ばらいをしてマツバは瞳を閉じた。
そうして[千里眼]の能力を使って視てしまったもの。
真っ先に浮かんだのは『こんなことがあるわけがない』という思いだった。
同時に、目の前にいる少女が[普通]ではないことを理解する。
しかし理解できるだけで、対処法がわかってるわけではない。
「何かみえた……? いえ、何がみえたと言うべきなのかしら」
言うべきか、言わざるべきか――迷った末、ゆっくり視線を少女へと向けた。
瑠璃色をした瞳は伝えることに躊躇(ためら)いを覚えるほど暗い光を宿し、そこに浮かんでいる感情は読み取れない。
「――わかりませんでした」
やがて、重々しい沈黙を破るようにマツバは小さく紡ぐ。
真実ではない――が、嘘ではないという姑息な予防線。
「あなた、嘘吐(つ)きね」
視線の先で少女の黒く長い髪がふわりと風に揺れる――瑠璃色の瞳を細め、血色の悪い唇が形を変えた。
追求されないことにマツバが安堵の息を吐く直前、はっきりと少女が言い放った言葉。
どうしてわかったのかということより、時間さえ凍り付くようなその微笑みに、心臓が大きく鳴るのをマツバは確かに聞いた。
張り詰めた空気の中、ただ少女の瞳を見つめるだけしかできない――が、自分が激しく動揺していることがわかっただけで、それ以上は何も起こらない。
二人の間に流れる冷たく重い空気を風が流してはくれないだろうか……と思いながら、握りしめた手に僅かに力を込めた。
永遠に続くかとも思われた静寂の末、少女の笑みが少しだけ熱を帯びる。
そうして瑠璃色の視線を驚愕に開かれたままのマツバの瞳へと移し、今日の天気はどうですかと聞くように言葉を紡ぐ。
「わたしはね、ずうっとあの子を探してるの」
でも、と少女は同じ調子で続ける。
その声は硝子を擦り合わせたかのようで、相も変わらず聞き取り辛い。
だが今のマツバにそんなことを言える心の余裕はなく、黙って少女の言葉に耳を傾けた。
「みえなかったのならいいの、みつからなかったと言えばいいの。そうすれば、千里眼にもみえないものはあるんだって納得できるから。みえないのならそう言えばいい」
血の気のない唇から紡がれる言葉は冷たく、怒りやそういった響きは一切含まれていないのに寒気がする。
口元は笑ってはいるが、目はぎらぎらと輝くようにマツバの方を睨み付けていた。
「でも……でもね。あなたはわからないとはいったけれど、みえないとは言わなかった」
マツバはぎゅうっと手を握りしめ――人の気も知らないで、と言いそうになるのを必死で押しとどめる。
本当のことなど言えるわけがない、と唇が震えるが、それが言葉になることはない。
小さく息を吸い、呼吸を整える。
目の前にある瑠璃色の瞳を見つめ、自分に言い聞かせるように、ひとことひとことを刻みつけるようにゆっくりと紡いだ。
「視えませんでした、何も。あなたが探しているムウマージがどこにいるかは視えませんでしたし、どこにいるかもわかりません。……どれだけ言えば、僕の無能さをわかって貰えますか」
千里眼も万能の能力ではない。
往生際の悪い依頼人から殴られることもあれば、口汚く罵られることもある。
そこまで言って視線を外し、今回はいったいどちらだろうと小さく笑う。
「『千里眼』の、これで二回目だけれど……嘘を吐いては駄目よ」
だが、少女が起こした行動は――マツバが受けたものはそのどちらでもなかった。
溜め息のように紡がれる言葉は、咎めるような響きが含まれている。
「嘘なんか……」
ついていない――そう紡ぐことができず、軽く唇を噛んだ。
「あなたの眼は不思議な眼ね。だったら、思わない? この世界のどこかには、自分以外にも普通ではない能力を持った人間がいるのかもしれないって」
諭すような穏やかな言葉に、マツバの心の傷が疼(うず)く。
それは穏やかと言うよりもどこか寂しそうな響きを伴っていたが、マツバはそれに気づかない――そこまで冷静になれていなかった。
「君は……君が? まさか、そんなはずがある、わけ、が」
「さぁ、どうかしらね。『わからない』わ。でも、そうよね……あなたは視えなかったと言ったのだから、あの子がどこにいるのか視えなかったし、どこにいるのかもわからなかったのよね?」
ここでマツバが少女の言うことをすべて虚言だと思い、視えなかったと答えればそれで終わった話だ。
あと少し年を重ねてさえいれば、真実が必ずしも正しいことでない、ということがわかっただろう。
――けれど。
少女の声がひどく疲れていたように思えたから……それだけではない、それだけではないが、それが本当のことだとすんなりと信じてしまうほど、マツバは若かった。
「言えない。言えるわけがないじゃないか」
痛いほどに握られたマツバの拳が震え、決して紡いではいけなかった言葉が口を出る。
「それに、代わりなら別のムウマージでも――」
「あなたには、大切な人っているかしら」
「な、何……を?」
前後の会話が繋がらない突拍子もない問いかけ。
思わず合わせてしまった視線の先、少女が薄い微笑みを作る。
答えるまでいつまでも待っている、とでも言うかのようなそれは、マツバから思考能力を奪っていった。
そうして、紅葉が八枚ほど落ちる時間を経(へ)て、ようやくぽつりとマツバは言葉を漏らす。
「親友が、ひとり」
「ひとりだけ?」
「そう、たったひとり。普通じゃない僕のことを普通だと言ってくれる人は、彼ひとりだけだから。だから僕が大切だと思っている人は、ひとりだけでいい」
「ああ……怒らないで、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさいね」
少女の笑みが質を変え、寂しさだけが残る――だが『たったひとり』を馬鹿にされたと憤(いきどお)っているマツバがそれに気付くはずもなく、自分よりも幾分か年下であろう少女を睨み付けながら、だったら……と口を開いた。
「もしもの話」
それを遮るように、骨張った白い手で黒髪を弄(いら)いながら、少女は溜め息を吐くように掠れて聞き取り辛い言葉を紡ぐ。
「その人がいなくなってしまったら、あなたはいったいどうする? 周りの人間から、そんなに探しても見つからないならもういないよ、他の人と仲良くすればいいじゃないか……と言われて、納得できるかしら」
彼が自分の前からいなくなる――そんなことを思ったところで、最後に行き着くのは一つだ。
この少女は一体何が目的で問いかけてくるのか、それを考えるより先に言葉が口を出た。
「彼の代わりなんてどこにもいない。僕は世界の果てまで捜しに行くよ。死ぬまでずっと、死んでからも。彼でない以上、他人からどんなに慰められようと意味がない。諦めきれる訳がな――」
そこまで言って、ようやくマツバは自分がどれほどひどいことを少女に言ってしまったのかに気付く。
はっとして口を押さえたマツバに対し、憤りとも哀しみともつかない曖昧な笑みを浮かべ、少女は写真へと視線を落とした。
「そうよね、わたしもそう思うわ。もう何年も探しているの、ずっと、ずっと。……四十(しじゅう)まではちゃんと数えていたのだけれど、それ以上は面倒で数えていないの」
少女は写真から視線を外し、目を丸くしているマツバを見つめる。
「普通じゃないわたしを怖がって誰も近づいて来ようとしなかったけれど、この子だけは側に来てくれたのよ。だから、知りたい。あなたが本当に視たもの――あの子がどこにいるのか」
切り取られた幸福な時間、擦り切れて色あせた写真。
少女の掠れた声が溜め息のように紡ぐ言葉を聞きながら、マツバは少女が何を思っているのかを視てしまう。
真実というのは、必ずしも正しいとは限らない。
唇が震え、紡ぐはずだった言葉が震えの中に消え失せる――とっくの昔に知っていたはずなのに。
嗚呼、畜生。
「……やっぱり、ね。そうじゃないかと、思ってたのよ。少しだけ」
震えるマツバの指の先で、少女は絶息のような溜め息をつき、小さく微笑んだ。

しらはゆづる様より頂いた小説の続きですw
マツバさんの大切な人=ミナキなんですね。
奥が深い・・・私もこんな小説が書けるようになりたいです!
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No.92 / 2010.04.23 20:50 / ポケモン / Comment*0 // PageTop▲
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