Rhapsody

  -ゆるやかに流れる時間の中、僕と君だけが凍り付いていた



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夢幻泡影〔1〕


「夢幻泡影〔1〕」

花の香りが風に完全に流れてしまうころ、マツバは固く握りしめていた手をゆっくりと開いた――指の間からさらさらと砂のようなものがこぼれ落ち、それは声を伴わない言葉と共に消え失せる。
光を反射して輝く水面、舞い落ちる紅葉、刻一刻と過ぎてゆく時間。
そのどれもが最初から何もなかったと錯覚してしまいそうになるほど穏やかで、ひどく胸が痛んだ。
どれくらいそうしていたのだろうか、空になった手の平を見つめていたマツバの唇から、ぽつりぽつりと掠れた言葉がこぼれてゆく。
「何も変わってなんかいない、何も」
確かめるように……あるいは自分へと言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返し何度も何度も紡ぎながら、祈るように手を重ねる――そんなことをしたところで、消えはしないというのに。
頭の中に浮かぶのは、とある物語のひとつ。
蝶になった夢を見ているのか、それとも蝶が見ている夢なのか。
夢と現(うつつ)の境目が曖昧になり、そんなことを考えるほど自分を見失っていることにも気付かない。
そんなマツバの意識を現実へと引き戻したのは、聞き慣れたいつもの呼び出し音。
パネルの表示を見なくても、誰からかかってきたのかわかる。どうしてこんなにタイミングがいいのかと苦笑いを零しながら、ポケギアを耳に当てた。
「はい、マツバです。ミナキくんどうし――」
「どうした、何かあったのか?」
遮るように紡がれた予想外の第一声に、思わずマツバの息が止まる。
一瞬、そうなんだ実はね……と言いそうになり、慌てて半開きになった唇を閉じ――別に何もないと言ってしまえばそこで終わる話だが、心のどこかで『そうして欲しい』と思っていたのだろう。
マツバの口からこぼれ落ちたのは、問いかけに対する問いかけだった。
「どうしたって……それはこっちの台詞だよ。僕はまだ何も言ってないじゃないか。どうしたこうした以前の問題だと思うのだけれど」
「えっ、あっ……いや、こう……どこがどう違うとはっきり言えないのだが、そうだな……いつものお前らしくないというか、なんとなく元気がないなと思ったんだ。直感だな、直感。というわけで、もう一度言うぞ、どうした?」
いつもより僅かに低くなってしまった言葉の調子、その違いに気付かなければ言わないでおこうと思っていた――とどのつまり、僅かな違いにも気付くほどの仲だったということ。
浮かべたつもりの微笑みが崩れ、自分が今どんな顔をしているのかわからない。
それでもこれ以上心配させないようにと、必死で言葉を形にする。
「……そう。聞きたいのなら教えてあげる、今すぐ来なよ。待ってる」
精一杯の虚勢、震えそうになるのを誤魔化(ごまか)すために早口になった言葉。
わかった、という短い返答とほぼ同時の通話終了音。
脱力したマツバの手からポケギアが滑り落ち、鈍い音を立てた。
ありがとう、ごめん――紡ぐべきだったのはいったいどちらだったのか。
ツー、ツー、と通話の切れた音を聞きながら、ゆっくりと視線を上げる。
空はどこまでも青く、絶え間なく降り注いでいる光は眩しい。
軽く噛もうとして、ようやく自分の唇が割れてしまっているのに気付いた。
乾いた笑い声が口から漏れ、マツバはこみ上げる感情に両手で顔を覆う。
「……シャボン玉を壊したのは、僕なんだ」
 
それは、寝て起きれば忘れてしまっているような、その程度の話。

しらはゆづる様より頂いたリクエスト小説ですw
マツバさんの悲しい話をリクエストさせてもらいました。
うぅーwマツバさんの切ない感じが大好きです!
もうたまりません(´Д`*)ハァハァ
まだ続きがあるみたいなので、心臓をドキドキさせながら待ってますw
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No.89 / 2010.04.13 18:12 / ポケモン / Comment*0 // PageTop▲
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